独立外交官 カーン・ロス

僕たちは、外交を自分たちの手に取り戻し、課題の解決を自ら引き受けなければならない。(p.295)
英国外交官に憧れ、ファーストストリームとしてその歩みを始めた著者ではあるが、次第にそのあり方に疑問を持つようになる。「われわれ」を主語として国益を語るにも関わらず、その行いに対しての説明責任をほとんど持たない。それぞれの国の代表として、同種の外交官が集まり、当事者不在の議論が進められる。そして、提案の可否があたかも国際競技大会であるかのように扱われ報道される。グローバル化した21世紀において、前世期のしきたりによって動いていることに著者は幻滅する。特に、国力が如実に表れることを見逃さなかった。国益にかなわない限り、現地の声を聞き会議で取り上げて議論されることはなく、看過されてしまう。著者は、英国の外交官であることを辞し、よりきめ細やかな活動ができる独立外交官として歩み始める。

著者は本書の中で外交官を廃止することを提案している。国境が薄まり問題が複雑に絡み合う現代では、限られた特定の組織(国)の代表として外交を続けることの意味は薄れてしまうからだろう。だから、外務省の存在意義は関係者の調整役に求め、個々人がもっと政策決定に参加していくべきだとしている。すでにEUや企業などは、政府を通さずに独自に外交を行っている。外交の現場からこういった声が上がるということは、いよいよ現実との乖離が大きくなってきたということなのだろう。外交官という役割の移譲がすぐに進むとは思えないけれど、だんだんと形骸化していきいずれは、、、という未来図ではあるような気はする。経済地域が1つ1つの国家よりも意味を持つようになる世界においては、外交の変化も考えておかなければならないキーワードの1つなのだと思った。


カーン・ロス
イギリス外務省に勤務
国連安保理イギリス代表部に中東問題の専門家、一等書記官として勤務
04年に外務省を辞職
外交コンサルティングの非営利組織インディペンデント・ディプロマットを設立


01 国連安全保障理事会
02 大使館
03 選ばれた事実
04 理想にみちた誤解
05 対立の構図
06 国益とは何か
07 道義的責任
08 何かが欠けている
09 決裂
10 独立外交官
11 外交の終わり
原注/日本語版へのあとがき/謝辞/訳者あとがき