すべて僕に任せてください 今野浩

同著者の『金融工学20年』という著作に、ある助教授が提案した「ネットワーク・ファイナンス・システム」に関する一節があった。ネットワーク・ファイナンス・システムとは、インターネット上でのオークション形式で行う中小企業に対する直接融資システムのこと。金融機関が集中的に掌握している情報を投資家に提供し、金融機関が貸し渋っている中小企業への融資を実現しようという計画だ。実現するのだろうか、実現すればすごいインパクトを持つな、というこの計画。考案したのは、当時、東工大にいた白川浩助教授。しかし、優れた才能を持つ研究者であった白川氏は42歳で亡くなった。

本書では、白川氏の半生を軸にして理工系大学(文系も似たもんだと思われるが)の事情が描かれている。白川氏の描写以外の部分では、同著者の『「理工系離れ」が経済力を奪う』と描かれていることは近似しているが、中心人物が据えられていることでよりダイレクトに伝わってくる部分があると感じた。私は、白川氏を神経質な線の細い感じの人とイメージしていたが、腕に数式を書き留めたり、ハンバーガーをコーラで流し込んだりという、非常にキャラの立った人だったようだ。表紙の絵はおそらく、後ろ姿をイメージして描かれたものだろう。しかし、そのどこか鬼気迫る原子炉のようなエネルギーの源泉が、自身の体への認識だと考えると胸が詰まる。

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今野 浩
中央大学理工学部経営システム工学科教授
東京大学工学部応用物理学科卒
スタンフォード大学大学院オペレーションズ・リサーチ学科博士課程修了
東京工業大学大学院社会理工学研究科教授等を経て現職
著書『金融工学20年』など


はしがき
01 ”ちょっと変わった”助手
02 「天才くん』登場
03 4000時間のバケモノ
04 スター誕生
05 ドンを敵に回す
06 幸せだった日々
07 2人の”叔父”と4人の師
08 東工大への帰還
09 助教授というポスト
10 ベルギー留学
11 うるさい教授
12 文理融合プロジェクトを立ち上げる
13 もう、うんざりなんです
14 生みの苦しみ
15 革命的プロジェクト
16 すべて僕に任せてください
17 病をおして
18 原子炉停止
19 トコトンやった
20 ドン・キホーテのどこが悪い
あとがき


日本と金融工学の関わりを描いたエッセイ集。面白い本です。
しばらく、売り切れだった気がしますが、また手に入るようになったようです。