アメリカ型成功者の物語 野口悠紀雄

「Die Luft der Freiheit weht -自由の風が吹く」 (スタンフォード大学のモットー P.192)
カリフォルニアのお話。19世紀のゴールドラッシュに根付いた精神は、現代のシリコンバレーへと受け継がれていく。
ゴールドラッシュでの成功者には2通りあった。1つには、金を掘り出した人達。もう1つには、金を掘りにきた人達から儲けた人達。今なお人気のリーバイスもその1つ。このゴールドラッシュの参加者の中に、後に鉄道王(Railroad Tycoons)となる4人が含まれていた。その内の1人がリーランド・スタンフォード。今の、スタンフォード大学創立者だ。大陸横断鉄道を建設して財を成し、亡き息子のために大学を作った。しかしその大学は、既存の者もとは違った主張ある大学で、当時の全体的価値観とのずれがあったために、一躍今のような人気大学になったわけではなかった。しかし、その精神は時代を経て受け継がれ人材を呼び込み、花開くことになった。その象徴が、サンやGoogleのといったITの旗手達。彼らが持っているのは、ゴールドラッシュをきっかけとして新天地に可能性を求めた開拓者精神であり、人と同じことはしないという態度。
シリコンバレーやITの話を聞いてわくわくするあれは、受け継がれる精神に触れることで自分の中にあるものが共鳴するからなのだろう。その精神はさかのぼれば、ゴールドラッシュにあったようだ。おもしろいのは、ゴールドが発見されてからゴールドラッシュになるまでに1年ほど間があくことだ(その呼び込みをしたのも、金を掘りにきた人達から儲けた人達のようだ)。おそらく、時代を揺るがすものに遭遇しても、ピンとこないのだろう。ピンとくるのは、未来を考えて「このピースが足らない」という点にまで、思考が達していた人達なのかもしれない。

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野口 悠紀雄
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授
東京大学工学部卒業
大蔵省入省
エール大学Ph.D(経済学博士)
東京大学先端経済工学研究センター長、
スタンフォード大学客員教授などを経て現職
著書『バブルの経済学』など


プロローグ 黄金の州
01 地表に金がころがっていた ー19世紀のゴールドラッシュ
所有地に金が出たので無一文になった男/成功者は金を掘らなかった/皇帝と怪盗、そして見聞者
02 鉄道王、大学を作る
大陸横断鉄道の完成/近代的錬金術の秘密/カリフォルニアへの苦難の旅/リーランド・スタンフォード/ピカピカ大学、牧場の真ん中に出現す/百年の歳月がもたらしたもの
03 ゴールドラッシュの再来 ーシリコンバレーの起業家たち
大学院生が作った未来的企業 グーグルとヤフー/超新星の爆発 ネットスケープ/インターネットの「配管屋」 シスコシステムズ/反マイクロソフトの盟主 サン・マイクロシステムズ/新しいビジネスモデルの時代/シリコンバレースタンフォード大学の役割/日本経済の未来はどこに?
あとがき/文庫版のあとがき/「自由、革新、チャレンジ」の空気 滑川海彦/索引