リクルート事件・江副浩正の真実 江副浩正

本書は、リクルートの前進である株式会社大学広告を設立し、リクルートの会長であった江副氏が、政治献金に関連して逮捕された「リクルート事件」について綴ったもの。佐藤優氏の『国家の罠』に構成は近い。しかし、いくらか余裕のあった佐藤氏(それでも次第に精神的に追いつめられていったが)とは違い江副氏は、取り調べ前から不安定な精神状態に陥っていく。それに加え、検察の取り調べは暴力的なものだった(肉体同士の衝突が無いというだけで"暴力"ではないという言い訳ができるような取り調べ)。

本書には、当時の担当検事とのやり取りも含められていた。その中で気になったのは2点。1つは検察がマスコミを意識していること。「マスコミを待たせるわけにはいかない」(p.106)といった言動は、マスコミ=世間と捉え、事件をショーアップしようという意図が感じられた。2つめはストーリーの存在。検察陣営の頭には「全貌を明らかにする」前に(勿論全くの創作ではないけれど)ストーリー(到着点)が描かれていると感じられた。そこに合わせて登場人物 (被疑者)をどう絡めていくか、といった微調整が取り調べや調書の重要用件であり、「リクルート事件」ではそれが強引に行なわれたようだ(当事者が書いたという本書の性格も影響しているだろうけれど)。

私は「リクルート事件」という事件自体、名称を数回聞いた経験があるに過ぎなかったけれど、本書を読んだことで当時の政界の環境を含め、ぼんやりではあるけれどイメージを掴めたという気はしている。しかし、佐藤氏もそうだが江副氏も、徹底的に攻撃するのではなく、どこか割り切っており合いをつけている。人を憎まずというのだろうか、それが著者の強さなのか、人間が生来持つものなのか、は分からないけれど、あんなにひどい目にあわされたのにすごいなと。