おもてなしの経営学 [★★★★☆]

おはようございます。
京都は雨がふっています。
今日は 『おもてなしの経営学』(中島聡) を紹介したいと思います。
おもてなしの経営学 アップルがソニーを超えた理由 (アスキー新書) 790円


NISSANがCMで「OMOTENASHI」という言葉を使っていますね。
  日産:動画ギャラリー
“おもてなし" という言葉は、著者がブログで
「User Experience」 というコトバをどう訳すか意見を求めた所から始まりました。
結果、Naotake という方の意見から、「おもてなし 」を選ぶことに。
以後、著者がブログや講演会で使用しているうちに 「おもてなし」は
はてなダイアリー」のキーワードに登録され、
 『現代用語の基礎知識』に収録されることになりました。
本書は、そんな「おもてなし」(User Experience) を考慮したプロダクトが、
どう位置付けされ 今後どうなっていくか を議論した一冊になっています。


About author

 中島聡
 早稲田大学高等学院に在学中に『月刊アスキー』に寄稿
 早稲田大学・大学院時代を含めアスキー・ラボラトリーズに加わり
 CANDYなどの開発や移植に携わる
 NTTに就職
 マイクロソフト日本法人に転職し、その後米国に移動
 ウィンドウズやIEの開発に携わる
 独立しUIEvolution を設立しCEOに就任
 HP Life is beautiful

Contents

 はじめに
 第1章 おもてなしの経営学
 『現代用語の基礎知識』に収録された「おもてなし」
 ユーザー・インターフェイスユーザー・エクスペリエンスの違い
 なぜグーグルはYOU Tube を買収しなければならなかったのか?
 ソウル(魂)のある ものづくり
 エンジニアの美学と床屋の満足
 コンシューマー・エレクトロニクス業界の将来像
 任天堂のものづくりの姿勢に学ぶ
 iPhone のどこが そんなに革命的なのか
 アップル・コンピュータが社名を「アップル」に変更した理由
 アップルはApple TV でいったい何を実現しようとしているのか
 第2章 ITビジネス薀蓄
 マイコン少年から経営者へ。『月間アスキー』と私の縁
 ダブル・メジャー
 たった1ページの仕様書から始まったウィンドウズ95
 グローバルな人事市場で求められる価値=英語力
 古くて新しいパーソナル・コミュニケーション
 空白の5年間
 アドビの英断、さてマイクロソフトは?
 大企業にしかでこないこと、ベンチャー企業にしかできないこと
 ウェブ2.0 とエグジットプラン
 NGNイノベーションのジレンマ
 米国の強さはその「超楽観主義」にあり!?
 iPhone が加速させる業界の再編成
 再就職が難しい社会では生涯教育が成り立たない
 アジャイルな開発手法とクラフトマンシップ
 SEO業者とグーグルのいたちごっこ
 コラムとブログとブラックホール
 そしてすべてはサービスになる
 第3章 特別対談
 Part1 西村博之 ニコニコ動画2ちゃんねるのビジネス哲学
 ひろゆきへの見方が一変する!?『2ちゃんねるはなぜ潰れないのか?』
 ウィンドウズを使い続けると遅くなるのは私の責任!?
 グーグルの存在はマイクロソフトにとって脅威ではない?
 朝も夕方も駐車場がガラガラのマイクロソフトは是か非か
 誰でもまねできるグーグルに将来は見えない?
 マイクロソフトの開発チームを引き締めていた副社長の存在
 グーグルが目指すのはインフラ企業、もしくは何も考えていない?
 インターネットの世界とかけて歌舞伎町と解く。その心は?
 ニコニコ動画が大ヒットした理由は「たまたま」
 ニコニコ動画がのアクセス急増から見える日本の通信政策の問題点
 ニコニコ動画の次の展開はハードディスクレコーダー
 広告に頼らず、売り抜けせず低く回し続ける2ちゃんねる
 大ヒットの前提は継続すること、継続の前提は面白いと思えること
 立役者になるメリットがない日本に住み続ける理由
 Part2 古川享 私たちがマイクロソフトを辞めた本当の理由
 タコ部屋の突貫作業でPC-8001ゲームブックを作成
 あのジョブズも度肝を抜かれた?CANDY開発エピソード
 20数年越しで明かされるフローッピーディスクユニットのコード裏話
 アスキー卒業。NTT、そしてマイクロソフト
 意外!?マイクロソフト社内で長らく冷遇されていたウィンドウズ
 社内クーデターでCairoチームからウィンドウズチームに加入
 傍流のウィンドウズ95がマイクロソフトの中心になった奇跡の逆転劇
 ウィンドウズのエンジニアを虜にしたインターネットの衝撃
 インターネットとオフィス、マイクロソフトが抱え続けたジレンマ
 次世代ディスクの一件で感じたマイクロソフトの企業としての臨界点
 「天を向く」「お金を稼ぐ」のベクトルが一致できる米国のベンチャー
 徳川家康の日本では出てこない「織田信長」の iPhone
 パーソナルコンピューティングの時代で一個人を認め合うブログの意義
 グローバル経済圏での成功を阻む資本主義の経営者のモラルバランス
 地上はデジタル放送、iPod課金問題から考える政府が果たすべき役割
 Part3 梅田望夫 「ギーク」「スーツ」の成功方程式
 ギーク・スーツの中間が存在しない日本のソフトウェア産業
 恐怖の世界の中でビジネスを叩き込まれる200人のゲイツ・クローン
 エンジニアとしての実力がものを言う弱肉強食の世界
 ソニーiPodを作れなかった理由は「中間層」の不在?
 日本のソフトウェア産業に顕著なギークとスーツの憎み合い
 「日本発世界」産業の勃興でスーツとギークの中間層は生まれる
 産業が伸びてこそ「企業のインフラ」は整備される?
 インターネットサービスの新しい生態系が切り開く未来
 アンドロイドはグーグルの将来を懸けた一大勝負?
 シリコンバレーの多産多死のメカニズムを社内で実現したグーグル
 ブログは新しい「私塾」の始まり
 人生最大の失敗をプラスにつなげる方法
 あとがき


Information
 ○YOU Tube の成功
   人間には、
   「自分がおもしろいと思ったものを他人と共有したい」という根本的な欲求がありますね。
   YOU Tubeはそれに対して、徹底的に「おもてなし」で応えます。
   著者は、「ユーザーがYOU Tubeを使って自己の欲求を満たす行為により、
   サービスそのもののプロモーションになる」
   という 仕組みを埋め込むことに成功したことが、成功の要因になったと指摘されています。
 ○アップルの成功から学ぶ
   ものづくりにおいて「こだわり」を持つ部分は 二つの種類に分けられますね。
   一つ目は、作る側が満足するための「こだわり」で
   二つ目が使う人の満足度をとことんまで上げるための「こだわり」です。
   アップルはどうやら後者の成功者のようですね。
   今後の動向として、
   ソフトウェアやインターネットに弱い企業がブランド力を保つことは困難かつ
   時代の変化に俊敏に対応することが難しくなる
   そして、部品から最終製品までの工程をすべて作るという
   垂直統合型総合家電ビジネスの維持が難しくなると指摘されています。
   その結果として生じるのが、企業タイプの二極化です。
   一つ目は、アップルのように
   ソフトウェア+サービス+デザイン+おもてなし+ブランド力で差別化をし、
   部品や最終プロダクトは、外部に作ってもらう企業です。
   二つ目は、シャープのような 特定の部品の実装、製造技術及び製造設備への積極投資により
   他社が追従できないまでの品質とコストで勝負する企業です。
   実際 今、アップルに一番脅威を感じているのは
   ソニーパナソニックといった コンシューマー・エレクトロニクスです。
   今後は、ココのデバイスを個別に設計販売するのではなく、
   トータルに見たときの「おもてなし」を考える必要があります。
   それが、結果として表れるのが、類似品を持った時と 「iPhone」を持った時の別次元の体験、
   完成度の高さによる「おもてなし」の違いです。
 ○企業に不可欠な人材
   そんな企業を導いていくのが、
   「ビジネスのことがわかる技術者」と「ITのことがわかる経営者」ですね。
   これから何が必要で、次に何をしなければならないかを
   時代の流れに乗って考えることができる力 が不可欠になります。
 ○対談
   本書には、著者と三氏それぞれとの対談が収められています。 (1対1です)
   大変読み応えのある内容になっています。
   三氏の経歴と、印象に残った部分を上げておきます。

   

   西村博之
   中央大学在学中に留学
   匿名掲示板「2ちゃんねる」を開設
   現在、未来検索ブラジル取締役 ドワンゴ取締役 (ニコニコ動画運営)
   著書 『元祖しゃちょう日記』 『2sちゃんねるはなぜ潰れないのか』
   HP ひろゆき日記@オープンSNS。
   (西村氏) 
   将来的に見ると、
   僕はグーグルにしかない価値が何なのかわからない。 (P.132)

   

   古川享 
   アスキーマイクロソフトで勤務
   マイクロソフト株式会社の社長、会長、最高技術責任者、
   米国本社バイスプレジデントなどを歴任  
   現在、慶應義塾大学 大学院 メディアデザイン研究科教授
   HP http://furukawablog.spaces.live.com/
   (古川氏) 
   ひとりの人間が2,3年でどのくらい成長するのかということを僕自身、思いっきり楽しめた。
   (中略)彼らに今、足りないものを補完すれば、
   さらに上のステージまで彼らが上がれるかもしれないと感じたんだ。 (P.166)

         

   梅田望夫
   慶応義塾大学 工学部卒
   東京大学 大学院 情報科学修士課程修了
   現在 ミューズ・アソシエツ社長
      (株)はてな取締役
   著書 「ウェブ進化論」「ウェブ時代をゆく」 「ウェブ時代 5つの定理」
   HP MochioUmeda.com
       My Life Between Silicon Valley and Japan
   (梅田氏) 
   最近のグーグルについては、ふたつの視点が重要だと思う。
   ひとつは、経営的な常識で言えば、
   グーグルの事業上のコア・コンピタンスは検索の周辺にしかないこと。
   (中略)もうひとつは、
   グーグルという会社自身が「シリコンバレー化」しているということ。 (p.252)


Recommend ★★★★☆
  すでに、多くの方が読まれているかとは思いますが 大変有意義な一冊でした。
  おもてなしという概念を使った経営論は大変興味深かったですし、
  剛の者が集まった対談では、Windows開発秘話やゲイツクローンの話など
  興味深い内容で充実しています。
  あなたは、「上を見て」仕事していますか?
  それとも、「天を見て」仕事をしていますか? ^^
  ぜひ御一読ください。


What's more
  私の家に最初に登場したパソコンはWindows95でしたね。
  親が仕事で使うぐらいで、
  私も文章を打つか年賀章を作るかぐらいの事しかしていませんでした。
  小学校では、Macがあって みんなで簡単なHPを作ったりしていましたが。
  次に家に現れたのは、一気に飛んでWindows XPでした。 (^^;
  すでに、光回線も開通していましたね。
    (奈良はブロードバンド化が日本一進んでいたそうです)
  なぜ、そんなに飛んだかというと
  家のCFOには、パソコンの価値がわからず インターネットなんて必要ないの一点張りでした。
  私も説得できなかったわけですし、わかっていたとは言いがたいですが。
  未来を考えた上での判断ではないですね。
  今後、パソコン・インターネットがリタラシーの一つになるのだから
  未来を生きる人間の視点で、困らない程度の環境づくりをする必要があったと思います。
  愚痴っぽくなってしまいましたね。
  
  そう言えば、著者は「○○リタラシー」と言う言葉を批判されていました。
  今時PCが使えないという言い方は許せないのだと。
  では、どう言うべきか?
  「普通の人が使えるようなPCを作らないほうが悪い」だそうです。 ^^
  
  話は変わって、
  日本には政府がなんとかしなければならないという考え方がある という話がありましたね。
  吉田ドクトリンですね。
  欧米は、競争自体が目的だけれど (経済が導出し、政府は関係ない)
  戦後の日本では、政策の目的として「発展」があったので、手段として競争させました。
  これは、構造障壁として 貿易摩擦時にジャパンバッシングされていましたね。
  未読ですが、
  VIEの事例として「日米半導体摩擦」に関してのサイドレターに触れた一冊がありました。
  近日購入予定です。
  日米韓半導体摩擦―通商交渉の政治経済学 4200円
  同じ著者が共著で著している、こちらもお薦めします。 (近日紹介予定)
  グローバル社会の国際関係論 (有斐閣コンパクト) 2100円