閉塞経済

『閉塞経済』(金子 勝著)


閉塞経済―金融資本主義のゆくえ (ちくま新書 (729)) 714円 199p 07.10.2008


Contents
【序 戦後最大の米国不況をどうとらえるか】
   金融資本主義の経済学
【1 バブルの経済学】
   サブプライム危機はなぜ起きたのか
1  バブルはなぜ起きるのか
   80年代の金融自由化とバブル
   70年代: 変動相場制下の「双子の赤字
   90年代末のLTCM危機と金融緩和
   長期停滞と波動
   バブル病の原因
   金融緩和だけで景気は良くなるのか
   グリーンスパンFRB長官がやったこと
   バブルのメカニズムは需要・供給の法則と異なる
2  バブルはなぜ繰り返されるのか
   ミンスキーの「金融不安定性」理論
   金融革新が金融危機を作る
   金融革新とサブプライム問題
   「影の銀行システム」の崩壊
   信用収縮のメカニズム
3  場物崩壊に対して経済学は役に立つのか
   日本の不良債権処理のどこが問題だったのか
   信用崩壊を止める方法
   日本のバブル崩壊と似て非なるもの
   ウォール街の「最後の貸し手」
【2 構造改革の経済学】
 1 供給サイドか需要サイドか
   経済政策をめぐる2つの立場
   90年代の政策の混乱
   教科書が使えない
   アメリカ型の金融自由化は正しかったのか
   それでもアメリカについていく?
 2 構造改革はどういった結末を迎えたのか
   新しい成長分野は生まれたか
   構造改革とインフレ・ターゲットの融合
   「いざなぎ超え」は輸出によってもたらされた
   輸出で稼いでも内需に波及しない
   レーガン税制の誤った導入
   経済成長に必要なインフラ投資は「教育投資」
   環境エネルギー革命という成長戦略
   経済の国家戦略を放棄した日本
 3 制度改革にはどういう思想が必要か
   「制度の束」としての市場
   セーフティネットがナイト市場が回らない
   年金、健康保険の一元化がなぜ必要なのか
   医療問題、介護問題と権限の地方への移譲
   歴史的条件を踏まえた制度改革
【3 格差とインセンティブの経済学】
 1 「正義の問題」と経済学
   「なぜ貧者を救うべきか」は経済学では説明できない
   功利主義と所得の再配分
   「機会の均等」と「結果の平等」
   正義の原理は普遍か
   平等を壊すのは簡単だが回復には長い時間がかかる
 2 インセンティブ理論の落とし穴
   情報の経済学にもとづく「インセンティブ」設計
   格差は競争を阻害する
   「自立支援」では自立できない
   医療にインセンティブ理論を導入すると何が起きるか
 3 新しいタイプの不平等
   世代を超える格差問題
   格差と成長
   新しい国家戦略の時代
   平等な社会とは


Information
バブル経済
「低金利を長く続けた」「金融緩和政策を長く続けた」というマクロ政策の誤りは、投機やバブル経済の根本原因というよりもそれを加速する役割を果たしたのではないか。
基軸通貨を持った国が、絶えず自国通貨を流し続けてシステムを維持しながら、金融自由化でグルグルまわしていく。
金融で稼ぎ世界を牽引していくためのシステムが世界的なバブル経済を作り出す大きな背景になっている。


グリーンスパン神話
グリーンスパンがやった政策は、バブルがひどくなったら金利を上げて抑えにかかり、バブルが崩壊した瞬間から小刻みに金利を下げて実質マイナス金利になるまで下げていく。
資産価格の上昇が引き起こされるので、次のバブルに備える。「グリーンスパン神話」というのは、バブルをコントロールすることで、バブルを次々に乗り換えていったことだ。
これを、英国の国際経済学者であるスーザン・ストレンジは「カジノ資本主義」や「マッド・マネー」と呼んでいる。

サブプライム問題が表面化して以降、信用収縮(クレジット・クランチ)が起きている。これが、実体経済を悪くしている。
悪循環を断ち切るためには、不良債権の損失を確定した上で 資本を増強して迅速に処理しなければならない。
日本の場合は、銀行が抱えている担保不動産の価値を過大評価することで、損失を隠していたが サブプライム危機は必ずしも意図的にごまかしているわけではなく、
ある意味で、米国の住宅バブル崩壊の方が、日本の土地場バルの崩壊より深刻かもしれない。リスクを回避するための金融革新によって、複雑で高度な手法を採用しているために、損失が特定できない状況に陥ってしまっている。


インセンティブ・ディバイド
教育社会学者の苅谷剛彦氏は「インセンティブ・ディバイド」と呼んでいるものがある。
最初の段階から格差が広がってしまうと、インセンティブを強めれば強めるほど、競争のできる人が限られていき社会の競争を阻害するというものらしいのだが、どうだろう。
不平等をそれ程感じないで住む社会にも、競争は存在するが、競争が複数存在しいて 単一の尺度では評価されない。
しかし、実現できるのは
「多元的な価値が存在し、競い合う合う民主主義」というのは、「政治的には闘争的民主主義でありながら、多様な意見に寛容である」という世界であり、容易ならぬ目標である。


格差の世襲が起きる可能性が拡大している。この問題を突き詰めれば、相続税の問題に行き着く。「機会の均等」を本当に実現しようと考えれば、新古典派経済学者でも相続税は100%取らないといけないという論理になる。
そうしないと世代にわたって「機会の均等」が保障されなくなるからだ。皮肉なことに、正反対に見える新古典派経済学者とマルクス経済学は同じ結論に至ってしまう。


About author
金子 勝
東京大学大学院経済学研究科博士課程修了
法政大学経済学部教授を経て
現在 慶應義塾大学経済学部教授
専門は財政学、制度の経済学
著書 『反経済学』 『戦後の終わり』など

 
最後まで読んでくれて ありがとうございます。  
時代の転換期にはよくあることだが、前の時代を前提としてつくられた学問体系が役に立たなくなってくる。
そこで「『金融資本主義』の時代を分析するために必要な経済学」という問いへのささやかな考えを書いたとのこと。


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