ジェネラルパーパス・テクノロジー

『ジェネラルパーパス・テクノロジー』(野口 悠紀雄、遠藤 諭著)


ジェネラルパーパス・テクノロジー 日本の停滞を打破する究極手段 (アスキー新書 70) (アスキー新書 70) 780円 217p 07.10.08



Contents
はじめに
【1 ITは経済社会の基幹産業】
1 世界経済構造の地殻変動
日本の経済的地位は大きく低下した/ITはアイルランドを劇的に変えた/ITで急速に発展するインド/20世紀型産業国家の凋落
2 日本のIT事情を象徴する金融システム障害
組織の基幹システムに問題が生じている/みずほのシステム障害/「トウキョー・ストップ・エクスチェンジ」?/金融取引電子化の経緯/基本的な原因はレガシー・システムの残存/三菱UFJのシステム統合/経営者の認識が重要
3 ITはジェネラルパーパス・テクノロジー
ITは生産向上に寄与しない?/90年代のインターネット株式上昇/ITはGPTなので、社会を変えるには時間がかかる/IT革命の本質は、コストの劇的な低下/技術と社会構造のミスマッチ/日本で「IT」というと携帯やWeb2.0になる
【2 ITとは何か?】
ITへの移行を、コンピュータと情報システムの観点から見る
1 1980年代〜90年代の前半に起きたコンピュータ・システムの大変化
三つの変化/メインフレームとは何か?/IBMの市場支配と日本のコンピュータ/チップの集積度向上が価格を低下させる/PCの誕生/水平分業がPC市場を激変させた/シリコンバレーワークステーションを生んだ
2 クライアント・サーバ型モデルとオープンシステム
クライアント・サーバ型モデルは最も重要な概念/オープンシステムがソフトの生産性を変えた/世界はオープンソース・ソフトウェアで回っている
3 新しい通信ネットワークと出会ってITが誕生した
通信コストは無限に下がっていく/世界中のコンピュータに無料でつながる/ウェブで誰もがネットを使えるようになった/社会インフラのためのセキュリティとデータ形式/ありふれたシステムとありふれたネットワーク
【3 日本の情報システムはどうなっているのか?】
1 心臓部にあるレガシー・システム
メインフレーム天国・ニッポン/レガシー・システムとは何か?/レガシー・システムの何が問題なのか?/ダウンサイジングがレガシーを生んだ
2 銀行・政府・交通・小売り・製造業の現状
銀行の情報システム/政府の情報システム/交通・社会インフラ系の情報システム/小売り・流通の情報システム/製造業の情報システム
3 日本特有の課題がある
日本はハードウェアは得意だがソフトは苦手/日本とアメリカで大きく違うシステム開発/経営のITに対する理解が浅い
【4 日本の電子政府は「おもちゃ」】
1 驚くべきレベルに達しているアメリカの電子政府
電子政府への取り組み/情報提供/オンライン行政手続き
2 日本の電子政府は本当に「電子」の政府なのか?
総合窓口の検索では目的の情報が探せない/個別省庁のウェブからも情報が入手しにくい/行政手続きがオンラインで出来ない/ウェブからの回答に1ヶ月かかる社会保険庁
3 電子政府に対する基本姿勢が間違っていないか?
北朝鮮より順位が低い日本の電子政府/公共事業と同じ発想
【5 ITが経済社会の基本構造を変えた】
1 ソ連型の計画経済から、アメリカ型の市場経済
計画経済vs市場経済/集中型情報処理の時代には、計画が有利だった/情報技術の変化がソ連を崩壊させた
2 恐竜型巨大組織から、動きの速い小組織へ
分散型情報システムの優位性向上/小企業が経済をリードする/水平事業とアウトソーシングが小規模化を加速
3 巨大企業による垂直分業から、専門化した企業群による水平分業へ
通信コストの低下がもたらす生産方式の変化/産業革命がもたらした垂直統合/ITが引き起こした水平分業への移行
4 90年代以降の日米経済構造の大きな差
アメリカに有利で日本に不利なIT/主要企業が入れ替わったアメリカ/IBMとGEの変身/AT&Tの退潮と消滅/主要企業が変わらない日本/未来に向かう最重要課題は産業構造の転換
【6 未来への選択】
1 グーグルか読み取る方向性
100万台のサーバが生み出す世界/ユーザ中心主義/クラウド・コンピューティング/グーグルは、経営の会社である
2 「次世代ネットワーク」が示す方向
「次世代ネットワーク」のメリットとデメリット
3 グーグルとNTTの対比が意味するもの
情報通信における「下手な鉄砲数撃つ」主義/閉鎖的孤立システムはガラパゴス現象を引き起こす/多様性と柔軟性こそが未来を拓く


Information
ITという発想の変化
コンピュータシステムは「メインフレーム・システム」が「クライアント・サーバ型システム」に変わり、
通信システムにおいては、電話と専用回線の変わりにインターネットが登場した。
そして、90年代に盛んに「ダウンサイジング」という言葉が使われた。
これは、PCなどの小型化を低価格化を指すのではなく、発想自体が、必要なものを使い分けていくスモールなものに切り替わったということだ。
これが、その後のITの性質を決定づける極めて重要な変化だ。
日本では、ITを回線の問題としてしか捉えられていない。
問題は、「それを使って何ができるか」なのだ。
日本経済が停滞している最も本質的な原因は、このIT革命の利益を十分に享受できていないからだ。
問題は深く、明確な答えの提示はしていないが、本書では そもそもの問題が提起がされている。
Diversity(多様性)とFlexibility(柔軟性)こそが未来を拓く。


本質を見極める
新しい情報通信技術であるITはGPT(ジェネラルパーパス・テクノロジー)であるため、組織や社会の構造と不可分であり、導入に際して組織や社会の変革が求められる場合がある。
先に述べた80年代以降に起きた変化は、極めて本質的である。
IT革命をこのような新しい情報・通信システムとして正しく捉えないとその本質が見えてこない。
GPTに関して重要なのは、「検索」や「ブラウザ」とか言う個別の技術というよりは、
それを使う社会の体制、とりわけ企業の構造だ。
年功序列という日本のいまだ存在する企業制度はITの導入や活用に対して抑制的に働く。
少なくとも、「ITの活用は経営戦略における最重要ポイントだ。ITの新しい技術を積極的に取り入れて競争力の源泉に仕立て上げよう」という発想にはならない。
企業に求められている新しい要求は、オープンシステムの標準化された技術の上で実現されるものが多い。
インターネット、データマイニングや社内の検索サービスなどは「レガシー・システム」(旧式システム)では難しい。
金融機関と並んで、レガシー・システムが未だに残っているのが官公庁や自治体のシステムだ。
これでは、メーカー任せの傾向はいっそう強くなるのも当然。


ITを競争力に
ITは競争力になりうる。
SONYでは、VAIOを手がけた結果会社のオペレーションシステムのスピ−ドや経営のスタイルや時間がコストであるという問題意識だったそうだ。
日本でも、自社のIT戦略を公開するような時代が可能性があるが、応えられる企業はまだ少ない。
IT革命を経済の側面から見れば集中型の情報処理システムの優勢が下がって、分散型の情報処理システムの優位性が向上したということだ。
分散型情報システムが進歩すると、分権型経済システムの優位性が高まる。したがって、計画経済に対して市場経済の優位性が増した、もしくは大組織に対して小組織の優位性が高まったと言える。
アメリカの社会はもともと、分散型のもの・流動性の高いものに向いていたのだが、それに適合した技術が登場したわけだ。
現在、日本では中国特需などを背景として重厚長大産業が息を吹き返してしまった。長期的な産業構造改革の必要性から見ると、これは必ずしも歓迎できる事態とはいえない。
07年の夏には、プラザ合意直前のレベルまで円安になったが、欧米諸国からの強い批判は無かった。
これは、欧米主要国の産業構造がすでに製造業中心から脱却していることを示している。


About author
野口 悠紀雄
東京大学工学部卒
大蔵省入省
エール大学 Ph.D (経済学博士)
一橋大学教授
東京大学教授
スタンフォード客員教授などを経て
05年 早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授
著書 『バブルの経済学』 『戦後日本経済史』など
HP 野口悠紀雄Online


遠藤 諭
株式会社アスキー入社
『月間アスキー』編集長 などを経て
08年 アスキー・メディアワークス アスキー総合研究所所長
著書 『計算機屋かく戦えり』など
HP Animation Floating Pen – Medium


今後、ビジネスパースンにもネットワークやコードなどの知識も必然的に求められるようになるのではないでしょうか?
少し考えるだけで、会計や経済などの知識と、情報系の知識を持ち合わせた尊敬できる人たちが思い浮かびますね。
私自身、インターネットに関わっておそらく5年たってません。家でインターネットを始めてたときにはすでに光ケーブルが通ってましたし。
小学校からPCの授業があるという恵まれた一面もありましたが。(この話、前に書きましたよね?)
身体性を持ってITと関われるようになる事が望ましいのですね。呼吸をするように、、、というアレです。
にも関わらず、貴重な人材である若い世代から情報技術との接点を取り上げようとしてしまっていますね。
ケイタイで、何をしてはいけないか教え、そこで終わってしまっているのではないでしょううか?
グラミンフォンのビジネスモデルなど、開発途上国でどのようなムーブメントは起きているか教えてみては?
ケイタイで何ができるか、もう一度考えてもいいかもしれないですね。
機能が多すぎるという意見も確かで、使わない機能を削ってその分価格が下がるか、自由に選べれば、みな喜ぶと思います。
でも、機能があるのに「それを活かすアイデアが思い浮かんでいない」という風に自分自身を歯がゆく感じることもあります。


各用語の索引がついてます。
便利でいいですね。「何度も読み返せ」ということかもしれません。   
★をつけないようにしているがこの本には、間違いなく★が5つ並びますね。
分量的にはITの話が多いですが、今後2つは不可分です。
ITと経済の話が1冊で読めるのだから、楽しいに違いありませんね。