憲法で読むアメリカ史

『憲法で読むアメリカ史 上・下』(阿川 尚之著)


憲法で読むアメリカ史(上) (PHP新書) 840円 290p 憲法で読むアメリカ史 下 PHP新書 (319) 861円 336p 11.01.04


Contents
上巻
まえがき
【01 最高裁、大統領を選ぶ 一】
【02 最高裁、大統領を選ぶ 二】
【03 アメリカ合衆国憲法の誕生】
【04 憲法批准と『ザ・フェデラリスト』】
【05 憲法を解釈するのはだれか】
【06 マーシャル判事と連邦の優越】
【07 チェロキー族事件と涙の道 一】
【08 チェロキー族事件と涙の道 二】
【09 黒人奴隷とアメリ憲法
【10 奴隷問題の変質と南北間の緊張】
【11 合衆国の拡大と奴隷問題】
【12 ドレッド・スコット事件】
【13 南北戦争への序曲】
【14 連邦分裂と南北戦争の始まり】
【15 南北戦争憲法
付録 アメリカ合衆国憲法(原文)


下巻
まえがき
【16 南北戦争終結と南部再再建の始まり】
【17 南北占領と改革計画の終了】
【18 南北戦争後の最高裁
【19 最高裁と新しい憲法修正条項の解釈】
【20 アメリカの発展と新しい憲法問題】
【21 経済活動の規制とデュープロセス】
【22 レッセフェールと新しい司法思想の誕生】
【23 行政国家の誕生と憲法
【24 ニューディール憲法革命 一】
【25 ニューディール憲法革命 二】
【26 第二次世界大戦と大統領の権限】
【27 自由と平等 −新しい司法審査のかたち】
【28 冷戦と基本的人権の保護】
【29 ウォレント・コートと進歩的憲法解釈】
【30 保守化する最高裁と進歩派の抵抗】
【31 今日の合衆国最高裁
あとがき/参考文献


いったい、連邦制度とは何か。 連邦制度の目的は何か。 なぜアメリカ国民は2000年以上も前に建国の父たちが定めた憲法の規定にしばられねばならないのか。 ブッシュとゴアの大統領選以降、こうした問題が改めて議論されている。 ブッシュ大統領が01年の就任演説で語ったように、アメリカ合衆国の歴史が一つの物語だとすれば、合衆国憲法の制定こそは物語り補最初のページに記されるべき出来事である。 その憲法が、その後どのように解釈され、人々の生活に影響を与えたかは物語の全編を通じて流れる大きなテーマの一つなのである。


Information
ロイヤーの国アメリカ
制憲会議が開かれた時、参加した55人の大部分は各州で指導的な立場にある、富裕なエリートだった。 その約半数が大学を卒業しており、ロイヤーは34人いた。 複雑な憲法起草の作業が成功した一つの理由は、法律の素養をもった参加者が多かったせいかもしれない。 アメリカはその建国の過程からして、ロイヤーの国であった。 それでも、建国の父たちは、最高裁アメリカ国政上これほど大きな地位を占めるようになるとは予測しなかった。 最高裁判事をめぐる人事が、全国民の関心を呼ぶ政治的事件になるうるなどとは、夢にも思わなかった。 けれども、その人事プロセスは一つも変わっていない。 そのこと自体、この憲法の長い命と有用性を示しているのかもしれない。


南北戦争での変化
奴隷解放宣言が戦争に勝利するための手段だったとしても、宣言はすぐに一人歩きを始める。 程なく、奴隷解放そのものが戦争の目的として受け入れられるようになった。 手段を持つ倫理性とわかりやすさが、それを目的そのものに転換する。 南北戦争中、連邦政府、特に大統領権限の拡大によって、憲法上戦争開始後のアメリカ合衆国は戦前とは全く違う国となる。 戦前となえられて広く信じられた、合衆国は主権を有する州の自由な連合であり、連邦政府は弱い存在であるという理論と現実は、リンカーン大統領の戦争政策遂行によって完全に打ち破られた。 北部の勝利が目前に迫ると、連邦が主権を持つ独立の存在であり連邦からの離脱が不可能であることを疑う人は、もはやいなかった。 ここに初めて、アメリカ合衆国は一つの国になったといえる。


大恐慌での変化
大恐慌という国家の危機をきっかけに進歩的な判事が多数を占めるようになった最高裁は、実体的デュープロセス理論を適用して議会の立法を否定することを控え、通商条項を拡大解釈し、連邦政府、特に大統領の権限拡大をほとんど無条件で認めるようになる。 そして経済立法に関する限り、これまでの司法審査のあり方を放棄したといってもいい。 これによって国民生活の隅々まで、連邦法に基づく規制の網がかぶせられ、州の独自性は著しく薄まった。 憲法制定以来 150年経って、アメリカという国の形は大きく変わった。 憲法革命とよばれる所以である。 



About author
阿川 尚之
慶應義塾大学法学部政治学科中退
米国タウン大学スクール・オブ・フォーリン・サーヴィス、ロースクール卒業
ソニー、米国法律事務所を経て
99〜02まで慶應義塾大学総合政策学部教授
02から在米日本大使館公使(広報文化担当)
05より慶應義塾大学復職
東京大学特任教授
ヴァージニア大学ロースクール客員教授
著書 『アメリカが見つかりましたか』 『海の友情』など