すべての経済はバブルに通じる 小幡績

すべての経済はバブルに通じる (光文社新書 363) (光文社新書 363) 798円 244p 08.15.08
金融資本が支配する社会における資本主義の本質が明らかになる。 それは、資本中心主義であり、資本の自己増殖本能を満たすために経済が存在するというものだ。 そして、金融手法の高度な発達によって、自己増殖した金融資本で、以前の金融資本を買うことを成り立たせ、自己増殖し続ける金融資本への対価を払い続ける存在を誕生させた。 しかし、その実、株価が上昇したところで、結局はその企業から生み出される製品やサービスには、何の変わりもないのだ。

Information
証券化というプロセス
サブプライムローン債権は各投資家の好みに合わせて仕立て上げれた商品化商品として販売された。 そうして数字として表されることによって、今まで見向きもされなかった資産が、突然の世界中のあらゆる投資家の投資対象となった。 その意味で、証券化とは、すばらしいマーケティング技術なのだ。 この技術を使い、構造的に儲かる仕組みが作り出され、リスクをとった投資ではなく、意図的にリスクをリスクで無くすことにより利益を上げるメカニズムになった。 ほとんどの資本は、事業リスクをとらずに、リスクをリスクでなくすプロセスによって利益を上げるようになり、最終的には通常転売を行わないような保守的な投資家すら参加せざるを得なくなった。 実際、サブプライムローンというずさんな住宅ローンは意図的にずさんに作られていたのだ。 新興国などで起きるバブルにしてもサブプライムローン証券化プロセスと同様である。 


バブルであるがゆえにバブル
バブルは謎が多い。 一般の認識だけでなく、評論家などのプロですら誤っている。 価格高騰は、最初のきっかけにすぎず、循環自体が本質である。 バブルに理由はいらない。 バブルであることが重要なのであり、バブルの生成に実態の存在が不可欠なわけではない。 つまり、バブルの生成に対する、決定的な論理はない。 例えば、バブルとバブルでないものに厳密に線引きをすることは難しい。 割高だからというのも理由とはなりえない。 しかし、その仕組みの一部を明らかにすることはできる。 バブルの崩壊が起きるのは、それがバブルだからである。 誰もが、バブルであることを知っているからこそ、いったん売りになったら、皆が続き、価格が暴落するのである。 そして、これを引き起こす合図が鳴ることも必要である。 それが、例えば、上海市場の暴落だったわけだ。 ファンドに求められるのは、ライバルよりも、儲けることである。 もし、リスクをとらずに損失が出なかったとしても、利益が上がらなければ、全く同じように資金は出て行ってしまい、ビジネスは破綻する。 よって、プロの方が素人よりもリスクを無視せざるを得ない状況に直面している。 さらに、残念ながら 100%バブルに投資しても十分ではない。 なぜなら、たいていの場合借金によってレバレッジを効かせているからである。 さらに、ヘッジファンドは、成功すれば成功するほど、破綻の可能性を高める構造を持っている。 利益の上昇に対して、投資機会の消失を引き起こすからである。 


キャンサーキャピタリズム
サブプライムショックの本質は、サブプライムにあって、サブプライムにあらずということだ。 サブプライムショックはサブプライムの内容とは関係がなく、21世紀型の新種バブルの生成と崩壊として扱われるべきものだ。 要は、リスクの変質にある。 重要なのは、投資から投機への変化ではなく、投資の意思決定の焦点がキャッシュフローの確実性に対するリスクではなく、他の投資家に売れるかどうかに関するリスクに移ったことだ。 そして、リスクの変質によるバブルが現実のものとなったのが、サブプライムショックであったといえる。 サブプライムショックは、仏の金融機関BNPパリバによるファンドの解約凍結を発端としているが(ちなみに、この仏における取引停止の要因は一トレーダーの不正取引にすぎなかった)その本質は、リスクテイクバブルとその崩壊にあるといえる。 この、リスクテイクバブルとは、キャンサーキャピタリズム(癌化した資本主義)の発現であり、最終的には、実体経済を破壊し、金融資本自身をも破滅させる結果をもたらす。 バブルの膨張、崩壊のメカニズムは、構造的に市場内部に組み込まれていたということだ。 今回、キャンサーキャピタリズムはリスクテイクバブルとして現れたが、今後もさまざまに形を変えて、世界金融市場に繰り替えし出現し、21世紀を席巻する。 この流れは、発症することがわかっていたとしても、金融資本が自己増殖を続ける限り、止まることはない。 しかし、今後、実態経済が金融資本よりも相対的に力を持つようになり、影響力を向上させる可能性もある。 


最後まで読んでくれて ありがとうございます。
後半部分の暴落に関する記述は、読んでいてハラハラしました。
『24』みたいですね。 面白い本でした。


About author
小幡 績
個人投資家、行動派経済学者
専門は、行動ファイナンスコーポレートガバナンス
92年東京大学経済学部主席卒業
大蔵省入省
99年退職
01~03年一ツ橋経済研究所専任講師
03年より慶応大学大学院経営管理研究学科(慶応ビジネススクール)准教授
ハーバード大学経済学博士(Ph.D
著書 『ネット株の心理学』など
HP 小幡績PhDの行動ファイナンス投資日記


Contents
まえがき
【01 証券化の本質】
【02 リスクテイクバブルとは何か】
【03 リスクテイクバブルのメカニズム】
【04 バブルの実態 −上海発世界同時株安】
【05 バブル崩壊1 −サブプライムショック】
【06 バブル崩壊2 −世界同時暴落スパイラル】
【07 バブルの本質】
【08 キャンサーキャピタリズムの発現 −21世紀型バブルの恐怖】