『ザ・ニューリッチ』(R.フランク著)

ザ・ニューリッチ―アメリカ新富裕層の知られざる実態 2100円 264p 09.13.07


 今の富裕層は自分たちだけのバーチャル国家を形成している。 彼らは金持ちになっただけではなく、経済的な異邦人となって、国のなかに独自の国家を、社会のなかに独自の社会を、経済のなかに独自の経済を生み出した。 こうして生まれたのが、金持ちの国「リッチスタン」だ。 だが、最も以外なのは、リッチスタンが資産レベルによって分断されていることだ。リッチスタンと一般人との資産格差が広がっているようにリッチスタン内でも資産格差は拡大している。 


Opinion
 ニューリッチが増えたことで、脚光を浴びるようになった産業がある。 例えば、執事。 しかし、執事といっても一昔前の初老の紳士といった執事ではなく、訓練を受けた若者が好まれている。 執事訓練所の授業料は12000万ドル以上する。 執事はいまや、アメリカでもっとも求人の多い職業の1つだからだ。 「認定ハウスホールド・マネージャー (CHM)」の肩書きは、いまや公認アナリストや法学博士といった既存の肩書きと並んで、名刺に使われている。 優秀な卒業生なら、初年度から年収8万〜12万ドル稼ぐこともある。 しかも、(住み込みだから)豪邸に住み、家賃も食費もタダだ。 
 

 しかし、変わったのは執事だけではない。 雇い主である有閑階級も、リッチスタン人の登場で、一変しつつある。 というのも、暇な金持ちに代わって、仕事中毒の富裕層が登場しているからだ。 そして、かれらは仕事だけでなく、リッチスタン人は、その財力をもって政治に参加している。 これは、本書の広範に描かれているが、私が特に面白いと感じた部分だ。 金で権力を買っている、もしくは動かしている、という言い方もできるのだけれど、しかし、一味違う。 自分の手で富を築いたリッチスタン人は、自分たちが育った時代の公正なシステムと豊富なチャンスを守りたいと思っているらしい。 
 

 とはいえ、富裕層といっても、多種多様だ。 献金パーティーに参加するようなタイプもいれば、ビジネスライクに飢餓や貧困に挑む人たちもいる。 やはり、読んでいて魅力を感じるのは後者。 私は、シリコンバレーの長者にこれに似たイメージをもっている。 例えば、自家用クルーザーやジェット、そして車にお金をかけて張り合う富裕層に対して、グーグルの創業者の二人は効率性を基準に購入を検討し、結果、ボーイング767広胴型機だった(内装にはこだわったみたいだけど)。 私の個人的な趣味ではあるけれど、やっぱり動き続ける富裕層の方がカッコイイ。 1度は行ってみたい場所、シリコンバレー、ではあるけど、近年のシリコンバレーは政治的にも重要な場所のようで、年中、寄付金集めのパーティーが開かれているらしい(『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか?』より)。 


About author
ロバート・フランク
ウォールストリート・ジャーナル誌はじまって依頼の、「ニューリッチ」専任担当記者
「The Wealth Report」というブログでもニューリッチの最新動向を紹介し、大きな反響を得ている
HP The Wealth Report - WSJ


なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか? - hasen’s long life (hatena)
ヒューマン2.0 - hasen’s long life (hatena)


【目次】
Contents
【はじめに】 −ニューリッチとはなにか
統計数字が示す驚くべき事実/富裕層が形成する独立国家/全く新しい富の文化/富裕層を構成する3つの階級
【01 ニューリッチの「ハウスホールド・マネンジメント」】 −いまどきの「執事」養成法
何が求められるのか/何を学ぶのか/お金持ちを甘やかす達人/「あれこそサービスだ」/引く手あまたの職業/ニューリッチが求める「執事」/執事の「事業計画」/執事とハウスホールド・マネージャー/バトラー・ブートキャンプ/執事を雇うことになった理由/ハウスホールド/マネージャーの仕事
【02 ニューリッチを生み出す原動力】 −即席企業家の時代
富が急増した原因/第三の波は史上最大規模/資金の本流が大量の富裕層を生む/富の源泉/即席企業家とは何か/政府の後押しも要因/「富裕層」の定義
【03 ニューリッチへの道】 −ミニチュアハウスで大富豪になったエド・バジネットの場合
イデアが生み出す莫大な富/ミニチュアハウスという発想/製品を海外調達する/新しい産業の誕生/事業の売却を決意/目を覚ます
【04 ニューリッチの暮らし】 −「働く有閑階級」ティム・ブリクセスの場合
「毎日、目覚めると違う場所にいる」生活/働く有閑階級の出現/「生まれながらの貧乏人さ」/見向きもされない土地に着目/富裕そうの人々が求めるもの/デスティネーション・クラブの魅力/ニューリッチの矛盾/二重人格者を生きる/生活規模の拡大/風変わりな事前行為
【05 ニューリッチからの転落】 −億万長者から劇的に転落したピート・マッサーの場合
資産が10億ドルを越えた瞬間/転落の恐怖/「なせばなる」/激変する生活水準/「彼は耳を貸しませんでした」/暴落
【06 ニューリッチの社交界進出】 −新旧富裕層の対立
国際赤十字ダンスパーティー/パームビーチ社交界最大のイベント/社交界の頂点を目指す野望/栄光からの転落/新旧富裕層の歴史的な確執/常駐階級の門戸を破るニューリッチ/確執の原因/パームビーチを変えるニューリッチ住民/ライフスタイルの違い/没落名家の子孫/新住民への複雑な思い/新住民のライフスタイル
【07 ニューリッチの消費競争】 −財力の証し
まったく新しいレベルの消費/ヴェブレンの顕示的消費/世界最大の自家用クルーザー/「慣れとはおそろしいものだ」/1億3500万ドルの住宅物件/急増する自家用ジェット機の売り上げ/ロールスロイスの復活/美術品相場が急騰した理由/駄作に法外な値/相場を吊り上げた張本人/60万ドルの価値がある腕時計とは/本物の旅行体験、夢の旅行計画/トリクルダウン効果
/高級小売店が支配する価格決定力/ラグジュアリー・ブームの闇
【08 ニューリッチの慈善活動】 −寄付に成果主義を求める
現状への挑戦/社会企業家/慈善も競争の時代/頭をつあってよりよい世界を築く/社会企業家は何をしているのか/理由ある反抗/ベンチャー企業化としての人生/5つの原則
【09 ニューリッチが政治を変える】 −リベラル流の新しい「黒幕」
「4人組」は変化の前ぶれか/ジェット族のリベラル/なぜ政治に興味をもったのか/ライフスタイルを頑なに守る/同士の集まり/共和党打破に投じた金額
【10 ニューリッチのお金の悩み】 −富が不安を生む構造
資産が悩みを増している/全米最大の富裕層サーポートグループ/富裕層の胸のうち/富裕層がお金について語るとき
【11 ニューリッチの子どもたち】 −富がもたらす子育ての憂鬱
結婚協定/ニューリッチ子女の消費生活/お金がもたらす深刻な副作用/オールドリッチの過ち/遺産を背負う若者たち/離婚時の財産分与/財産をめぐる複雑な思い/負の遺産
【12 富の格差とニューリッチの未来】 −カーネギーの夢は実現するか
厳しい現実に直面して/不都合な真実/格差は容認できるのか/富はどこへ動いていくのか/一縷の望み
訳者あとがき