謎の独裁者・金正日 佐々淳行

『スパイと公安警察』と同様にスパイとの戦いも描かれてはいるが、より政治的な部分に詳しかった。題名にもある北朝鮮の話題に加えてKGBや韓国の話も同量ぐらいにあった。しかし、読んでいて印象深かったのは日本人のテロ。正直言って外国で爆破事件をしでかすなんて想像もつかないが、事実なのだなぁ。

テレビの刑事ドラマが扱う事件も時代に沿って変わってきているようだ。『西武警察』はライフルを持ってハイジャック、『はぐれ刑事』は人間関係のもつれ、『相棒』には権力が少し絡んでくる。主人公の役職の違いが影響しているのだろうけれど、ある程度は社会を反映していそう。猟銃を抱えて、路面電車をハイジャックする事件を見て、ありうるという気がする時代精神とはどんなものだったのだろう。軍部主導の時代や江戸時代は振り返った時に一直線上に見え隠れする歴史だけれど、東京駅でその場に居合わせた大勢の若者が肩を組み合いフォークソングを歌ったり、本書にあるようなテロ事件が発生したりという風景は、共に日本における近過去のパラレルワールドを見ている気分になる。


佐々 淳行
東京大学法学部卒
国家地方警察本部(現警察庁)に入庁
初代内閣官房安全保障室長を務める
昭和天皇大喪の礼警備を最後に退官
「危機管理」という言葉のワード・メイカ
著書『東大落城』など


まえがき
01 北朝鮮
不気味な独裁者・金正日/深夜の諜報無線/金日成閣下の無線機/青瓦台武装ゲリラ事件/文世光事件の謎/ラングーン爆弾テロ事件/マインドコントロールされた金賢姫/許せない邦人拉致事件/八月は魔物の住む月
02 KGB
落ちた偶像・KGB/「剣」と「盾」のKGB/スパイ・キャッチャーの悲哀/トラになったKGB/”ミコヤン少将”の8ミリカメラ/リンゴの小枝と鶏の骨
03 余話
シュタージ(東独秘密警察)の悲劇/一級建築士田中角栄閣下/ネグシ・ハベシ国大使の犯罪/お粗末な二件のハイジャック事件/歴代韓国大統領の悲劇/金大中事件の回想
あとがき/解説(岡崎久彦