人でなしの経済理論 ハロルド・ウィンター

人でなしの経済理論-トレードオフの経済学
ハロルド・ウィンター
バジリコ
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物事の善し悪しは主観によって変化する。経済学の枠組みを用いることで、道徳的な判断ではなく、それぞれの提案が持つトレードオフを見極めることができる。具体的なアプローチは理論的なトレードオフを見極め、実際に計測し、政策の提言・実施するというプロセスを経る。しかし、これによって答えがすぐに見つかるかというとそうではなく、経済学的な理由付けを行うことでどんな政策提案も(たとえ、顔をしかめたくなるような提案でも)他の提案に対する長所もしくは短所を持ち合わせていることが分かり、万人が満足できる提案などなく、ただトレードオフがあるだけ、という点に帰着することになる。

ある枠組みによって整形された提案を横に並べて、その中から政策目標に合ったものを選ぶことになるのだろう。本書では、臓器移植や煙草の規制などの社会問題について論じてある。しかし、読了後すっきりとした気分にはならなかった。なぜなら、著者も言うように本書の狙いは方法の一つとして経済学的な議論を紹介することであり、著者自身の社会問題に対する主張は意図的に避けられているからだ。だから、本書の流れに沿って流れていけば、著者のおかげで、抱えていた課題が雲散霧消するというものではなく、読み終えた後には、かえって思考対象となる課題が増えたような気さえした。それでも、新しい思考ツールを手に入れることができたという喜びは大きい。


ハロルド・ウィンター
オハイオ大学で経済学を教える


はじめに ー僕の世界へようこそ
謝辞
01 社会問題へのアプローチ
02 人命の価値っていかほど?
03 取引しようか?
04 おまえのものはオレのもの
05 持っているのなら吸ってはいかがか
06 人に迷惑をかけないとは
07 規制と行動の変化
08 警告 ー製品に注意
09 解決策などない?
訳者あとがき