脱「ひとり勝ち」文明論 清水浩

脱「ひとり勝ち」文明論
清水 浩
ミシマ社
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でも、これからの文明では、勝ち負けというのは、価値基準としてはたいしたことがない。それくらいになってほしい、と思います。(p.190)

著者は、未来の車を作っている。「Eliica」という8輪のスポーツカーだ。時速370キロの高速マシンだけれど、排ガスはゼロ。なぜなら電気自動車だから。著者の方法であれば、エコのために「今在る何かを我慢する」必要も無いし、「今在るものを少し改善する」ものでもない。全く新しい方法で、一気にもっと先まで突き抜けることができる。今までと違うやり方だから、今までのやり方によって起きていた問題が元から絶たれる結果にもなる。

本書で紹介されている車の例で言えば、スポーツカーなら今より遥かにスピードが出るし乗り心地も良い。普通の車でも立って乗れるぐらい余裕を持った車内空間を実現できて、ゆくゆくはオート操縦も。太陽電池も紹介されている。地球上で、エネルギーを豊富に使える地域とそうでない地域が在るという事実について、今まで、頭の中ではっきりしていなかったように思う。その差により起きている社会問題は貧困を始め、非常に悩ましいものばかりだ。でも、エネルギーが開放的に使える世界では、貧困は居場所を無くし、問題は漸次解消されていくかもしれない。そんな世界にぜひ生きてみたい。

著者が、「・・・量子力学を基盤として、本当の意味で新しい技術が生まれているのに、それを使わないまま、百年以上も前の科学的知識にたよった技術を使い続けていることが問題なんだ・・・」(p.177)という言い方をされていた。こういう言い方を読んで非常に嬉しい気持ちになった。本書を読んでいると、体に漲るものがある。その漲るものがあれば、身の回りの様々な問題に当たっていけそうな気がした。私が、これからの日本のグランドデザインとして、まず読みたかったのは、本書のような規模感のあるもの、大きく包み込むようなものだったのだ、ということに気がついた。


清水 浩
慶応義塾大学環境情報学部教授
東北大学工学部博士課程修了
国立公害研究所、アメリカ・コロラド州立大学留学
国立公害研究所地域計画研究所室長
著書『爆笑問題のニッポンの教養 教授が造ったスーパーカー(共著)』など


まえがき
01 脱「ひとり勝ち」文明へ
02 未来は、電気自動車の中にある
03 「エリーカ」開発で見えてきたこと
04 日本発、日本型の文明を!
あとがき