たった1%の賃下げが99%を幸せにする 城繁幸

ビジョンを掲げて多数派の意志決定に影響を与えるのは、学生運動を見ても分かるように、常に一部の少数者なのだ。(p.48)

本書では、経済成長期に形成された価値観を便宜的に昭和的価値観と呼んでいる。この昭和的価値観がもたらしている悪影響と改善策、そして近い将来の現状維持限界期に向けての提案がなされている。

昭和的価値観には、年功序列という概念が含まれている。この「上がったもん勝ち」の構図は、序列・賃金の下方硬直性を強く持っている。つまり、右肩上がりする一方で、社会や経済の状況にあわせて調整することができないという問題点がある。最近になって賃金格差が取り上げられているが、これまでは中小企業や下請けに対する支払いを調整することで、この構造を維持してきた。しかし、表面化した各種の問題が、もはやこの構造が限界にきていることを示している。その解決方法となるのが、書名にもあるアプローチ。45〜55歳の正社員が年給総額は約45兆円にのぼっているが、その1%(4500億円)が非正規雇用側に分配されることで、10万人の雇用が維持できるのだという。そして、年齢給から職能給への移行が構造問題を解決することになる。

雇用の流動化がすすめば、間違いなく賃金格差が生まれるだろう。産業の移り変わりに合わせて、経済的に優位な新しい産業(現代なら知識産業)にスムーズに移行できる人はそれほど多くないと考えるからだ。しかし、無くすべきは世代間格差で、避けるべきは、格差の固定化だ。最低限の生活保障とトレーニングの環境を充実させ、「どのラウンドからでも勝てる」(再チャレンジできる)社会システムが日本の目指すべき道だろう。大波が来た時に困らないように、今、できることは何だろうか。

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城 繁幸
人事コンサルティング「Joe's Labo」代表
東京大学法学部卒業後、富士通入社
著書『若者はなぜ3年で辞めるのか?』など


はじめに
01 正社員と非正規の間にあるもの
02 生き残る21世紀型人材像
03 年功序列は日本社会も蝕む
04 雇用再生へのシナリオ
おわりに