数学者のアタマの中 D.ルエール

まず重要なのが、「自然は人間に数学を通してヒントをくれる」という点だ。(p.204)

数学者のアタマの中
数学者のアタマの中
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D. ルエール
岩波書店
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数学の読み物。著者は、フランスのIHES(高等科学研究所)の名誉教授。数学をする人達がどう考えるか。数学の美とは構造とは。数学に関する著者の思索が詰まっている。数学はそれまで定義されていなかった数学用語の間に、公理と呼ばれる論理的な関係を、公準として打ち立てる。数学は、数学のさまざまな概念は人間の精神が生み出した故に独特の癖を反映するという人間的な部分と、チューリングマシンの出力と同一視できるような、ZFC公理系から得られる全ての結果を列挙するために、永遠に機能し続ける論理的な構造物でもある。数学という論理的な枠組みの中から単純さと複雑さが明るみに出てくる様が数学の美しさとつながっている。

著者は思索の途上で、幾つかの結論付けを楔のように行なっている。耳に心地よく、しかし独りよがりではないので、数学に明るくない人間でも共感を覚えることができた。腕力だけでは到底解けそうにないような問題が、気の利いた推論を重ねれば解けた時に、数学の美しさを感じる(しかし、そのような推論が必ず存在するという保証がどこにも無い!)と言われると、ああ確かにそうだなと。数学の内側からの必然の流れで優れた概念が生み出されることもあれば、全くの外部からもたらされた概念が非常に強力なこともある。そうした変化を数学者達は教え合い共有しようとする。そして気がつけば遠い距離に在った概念がそばに在って自然に感じるようになる。(大学の会議で難儀なのは数学科の教授で、、、という話もあるが)数学者が伝え合い共有しようという姿にも美しさを感じる。それはIHESの風景を納めた『謎を解く人々』でも感じた。数学をするというのはかなり個人プレイだろう。『謎を解く人々』には黒板に数式を書き考えを巡らす数学者の写真があった。しかし、それと同じぐらい議論している様子や、レクチャーをしている様子を見ることができる。(IHESの文化なのかもしれないが)本書を読んで「教える」というのが数学をすることの文化の一部だという受け継がれる歴史を感じた。

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デビット ルエール
ブリュッセル自由大学卒業
物理学でPh.D取得
プリンストン高等学術研究所、
仏IHES研究員を経て、IHES名誉教授
85年ハイネマン賞、86年ボルツマン・メダル賞受賞


はじめに
01 科学的に考える
02 数学とは何か
03 エルランゲン・プログラム
04 数学とイデオロギー
05 数学のまとまり
06 代数幾何学と数論をちょっと見ると
07 アレクサンドル・グロタンディークとのナンシーへの旅
08 構造
09 コンピュータと脳
10 数学のテキスト
11 名誉
12 無限という名の神の煙幕
13 基礎
14 構造や概念の創造
15 チューリングのリンゴ
16 数学における発明 ーその心理と美学
17 円定理と無限次元の迷宮
18 間違えた!
19 モナリザのほほえみ
20 プリコラージュと数学の理論構築
21 数学における発見の戦略
22 数理物理学と創発的なふるまい
23 数学の美しさ
訳者あとがき/注


謎を解く人びと - 数学への旅
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写真とエッセイ。