世界は分けてもわからない 福岡伸一

<ここから切り離してください>、そのようなことを許す点線はどこにも存在しない。(p.119)

「生命」に部分はあるのか?科学の読み物。心臓、肺など我々の体には臓器があるが、そうした部分と身体の間に切り取り線(機能的な境界)は存在しない。だから、切り取り、違ったところへと嵌め込むと、叫び声が拒絶反応として表れる。しかし時に、その新しく現れた環境が、お互いに折り合いをつけて徐々に新たな平衡点を見つけることがある。生命現象の可塑的な、絶え間のない動的平衡状態の現れ。

後半は、スペクター氏とラッカー氏のがん細胞研究の話。練り上げられる論理と、それを裏付ける実験結果。築かれる天空の城とその果て。人は、パターンを見いださずにはいられない。しかし、ついつい自分が見たいものをそこに見いだしてしまう。裏側を見せない月面に違う図柄を見いだし、トーストに聖母を見いだす。天空には星座が浮かび上がるが、それは星の光が届いているにすぎず、黒の部分にも無数の星があり、また、見えている星には既に存在しないものある。本書には、ミザールとアルコルの例があった。アルコル(等級4)はミザール(等級2.2)の伴星。古代にはこの2つの星を分離できるか否かで、徴兵が決められていた。見えれば、徴兵されるということから死につながる星として扱われる一方、地域(日本)によっては見えなくなることが死につながると言われるなど、地域により伝承がある。ちなみに、『北斗の拳』に「死兆星」としても登場する、、という話がWikipedia[1]にあった。著者は言う。世界は分けないことにはわからない。しかし、物質と機能の対応は変化する。捉えた一瞬の次の一瞬には、先ほどとは全く異なった関係へと散らばり、そこで新たな相互作用を生み出す。世界は分けてもわからない。

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[1]アルコル - Wikipedia


福岡 伸一
京都大学
ロックフェラー大学およびハーバード大学医学部博士研究員
京都大学助教授を経て、青山学院大学理工学部教授
分子生物学専攻
著書 『動的平衡』など


プロローグ パドヴァ、2002年6月
01 ランゲルハンス島、1869年2月
02 ヴェネツィア、2002年6月
03 相模原、2008年6月
04 ES細胞とガン細胞
05 トランス・プランテーション
06 細胞のなかの墓場
07 脳のなかの古い水路
08 ニューヨーク州イサカ、1980年1月
09 細胞の指紋を求めて
10 スペクターの神業
11 天空の城に建築学のルールはいらない
12 治すすべのない病
エピローグ かすみゆく星座