「戦争経済」 [★★★☆☆]

おはようございます。
今日も一冊紹介したいと思います。
世界を不幸にするアメリカの戦争経済  イラク戦費3兆ドルの衝撃 1785円
「戦争経済」 (J.スティグリッツ、L.ビルムズ著)です。
イラク戦争にかかったコスト計算が主となっていますが、
同時に、負傷兵・退役軍人への手当ての遅延といった問題も指摘しています。


About author

 J.スティグリッツ
 アマースト大学、MIT、ケンブリッジ大学で学び
 エール大学、オックスフォード大学、プリンストン大学スタンフォード大学で教鞭をとる
 ノーベル経済学賞受賞
 クリントン政権の大統領経済諮問委員会で委員長を務める
 世界銀行の上級副総裁 兼チーフエコノミストを勤める
 現在コロンビア大学教授
 HP http://www2.gsb.columbia.edu/faculty/jstiglitz/index.cfm
 
 L.ビルムズ
 ハーバード大学 ケネディ行政大学院終了
 商務次官補を経て、主席財務官

 
Contents

 序 アメリカ経済を弱体化させた戦争というビジネス
 第1章 ブッシュは三兆ドルをどぶに捨てた
 第2章 二つのシナリオで予測するアメリカの暗い未来
 第3章 兵士たちの犠牲と医療にかかる真のコスト
 第4章 社会にのしかかる戦争のコスト
 第5章 原油高によって痛めつけられるアメリ
 第6章 グローバル経済への衝撃
 第7章 泥沼からの脱出戦略
 第8章 アメリカの過ちから学ぶ
 付録1 緊急歳出法にかんする下院議員宛の大統領所管
 付録2 変遷する国防総省イラク自由作戦のウェブサイト
 付録3 分析手法解説
 訳者あとがき


Information
 ○戦争にかかったコスト
   退役軍人の医療費などの長期的費用を含まない状態で
   ベトナム戦争のコストを超え朝鮮戦争の2倍以上になっています。
   最良のシナリオとして2012年までに戦闘部隊をすべて撤退させ、
   かつ 医療費と障害手当てを必要とする退役軍人が減少するとすると想定すると
   結果的に湾岸戦争のほぼ10倍、W.W.1の2倍、ベトナム戦争の1.5倍かかる見積もりになります。
   今までの戦争で最もコストがかかったのは、W.W.2の5兆ドルでした。
 ○計算ステップ
   1. 今日までの軍事活動に関連する予算割り当て・支出
   2. 国防予算とは別の運用費と節約の加算
   3. インフレーションと貨幣の時間的価値の調整
   4. 将来の運用費の加算
   5. 退役軍人の障害保障と医療費にかかる将来のコスト
   6. 開戦前の軍事力の回復とメンテナンスのコスト
   7. 政府の他分門にかかる財務的コスト 
   8. 利息の加算
   9. 経済に対するコストの見積もり
  10. マクロ経済への影響
 ○入隊制限の弱体化
   アメリカ軍は、年齢の上限が35歳から42歳に引き上げられ 外見や態度の基準を緩めました。
   また、以前より多くの重罪犯の元受刑者を陸軍に入隊させるようになりました。
   軍の中で、高校卒業者は73%にとどまり 適性検査の最低得点者の新兵も増えています。
 ○半事実的条件文
   戦争によって浮いたコストを考えます。
   例えば、もし戦争をしていなければ飛行禁止空域を作る必要があった ということです。
   しかし、結果的にその浮いたコストもイラクに使われたようですね。
 ○手当て
   退役軍人手当ての支払いは長期間 遅延しています。
   若いアメリカ人が死傷したことで 生産能力を喪失し、周囲の人々の問題(例えば、ケアのために仕事を辞める)
   というコストも発生します。イラク・アフガンに派兵された軍人のほとんどは、危険性を十分には理解していませんでした。
   兵士の3分の1は州兵や予備軍から招集されました。彼らは国外に長期間配置されるとは思っていなかったようです。
   州兵がいなくなることで緊急時に提供される極めて高い価値の貢献が失われます。
   応答の体制を整えておくことの保険価値というものです。 (例えば緊急時に駆けつけてくれる)
 ○戦争で経済が上向く?
   こういう考え方がされるようになった背景には、 W.W.2で経済効果があった事実があるようです。
   しかしこの時 経済が上向いたのには当時、国内市場の需要が不十分だったことがあげられます。
   証券がそろわない限りは、戦争で経済が上向くということはないようですね。
 ○グローバル化市場への影響
   戦争によってグローバル化は大きな影響を受けました。
   当のアメリカ自身、グローバル化で大きな利益を上げてきた分 失うものも多くなりそうです。
   そして、イラクでは国内情勢が安定する前に民営化を敢行した結果、
   国内企業は底値で買い叩かれ企業資産の収奪が行われました。
 ○結論
   この先何十年にもわたって、戦争のツケを払う必要がある。


Recommend ★★★☆☆
 もともと論文だったものに著者が加筆修正した一冊ですので、何重にも議論されていました。
 特に医療費問題が興味深かったと思います。
 兵器の配備などに関しては、P.ポースト著の『戦争の経済学』の方が詳細だったと記憶しています。
 というか、この本おもしろかったです。
 戦争の経済学 1890円


Wha's more
 第8章での提言には眼を通した方がいいかもしれませんね。
 情報の非対称性など、得意分野の発想を活かした提言でした。
 私はこれに、大統領権限の剥奪と 悪魔の弁護人の配備を提案したいと思います。